西新宿という街は夜の街の奥座敷…という性格上か、夜行性な犬とそのオーナーが多い。
2日前だろうか。
終電になんとか間に合った日、
帰宅間際の西新宿五丁目駅付近。
パピヨンとかいう小型犬が飼い主を引き連れ闊歩している。
俺は年甲斐もなく好きになった娘がいて、
どうにもならない自分、
やたら忙しい仕事、
彼女が持つ悩み、
届かない声、
それら全てをまとめて、
うつ向き加減でノタリノタリと歩いていた訳だ…。
…。
…ぁあ、
………
…
、
?
…
犬…
犬か…
カタギじゃないイデタチのおじさんを引っ張るパピヨン。
洋服なんかきてらぁ、
でも、ダウンなんか着てる俺には
好きな女の力に掛ける声もない…
…
…
なんとも…
?!
犬が飼い主を無視し俺の足元に…
クルリと頭をもたげこっちを見る。
潤んだ視線…
ゃ、
俺?
…大丈夫っすょ。
視線を交わす。
…
…
アスファルト
アスファルト
アスファルト、
アスファルト、
犬…
クルリと歩きながら犬…
こちらを心配そうに見る犬…
リードが延びた先、
面食らう飼い主が繋がれている。
アスファルト
アスファルト
アスファルト
犬…
いゃ、大丈夫っすから。
西新宿には優しいヤツらが闊歩している。
ただ、
彼らの優しさに俺は甘える気が無い。
彼らもそのことを良く良く知ってるようで…
それだけに、埋まらない距離を感じながら、
彼らは飼い主を引き連れ僕の横をしばらく歩き続ける。